13. 感情の動きを読み取る
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1. 感情の測定:主観・行動・生理の観点から
人間の感情体験そのものや、それが及ぼす影響を心理学的に測定する際、その測定方法は主観・行動・生理の3つに大別される 主観
主観的体験のこと
本人が感じる気持ちや気付き
緊張や不安を感じた場面において、どのような気持ちになったかとか、どの程度強い緊張感を感じたかといった主観的体験について質問紙法を用いたり、インタビューすることにより調査したりする
行動
課題に対する成績の良し悪し
行動指標は大別すると2つの指標
目標の達成度や反応の素早さ、正確性など、測定した数値によって成績の良し悪しを評価するための指標
表情や瞬き、身振り手振りのように、非言語行動と呼ばれる指標 生理
緊張や不安な状況によって私達の生体にどのような生理的変化が起こったかを、心拍や精神性発汗などの末梢神経活動や、脳波などの中枢神経活動を測定することにより評価する これら3つの指標には相補的な関係がある
研究目的に沿っていくつかの指標を組み合わせるのが一般的
初学者は生理心理学的評価は主観的評価に比べて科学的な評価方法と感じるかもしれないが、それは誤り
例えば、心拍数はポジティブ/ネガティブ両方の興奮で高まりうる
つまり、生理心理学的評価は、生体の変化を厳密にとらえることはできても、具体的に対象者がどのような感情体験をしているのかについては何の情報も与えてくれない
逆に主観的には何も感じていなくても、無意識のうちに生体に緊張反応が起こっており、それが日常の行動に悪影響を及ぼすこともある
こうした場面では精神性発汗のような生理心理学的評価の測定が非常に有益
また、緊張や不安の感情はつねに悪影響とは限らず、そうした場面の方がパフォーマンスが発揮できるかもしれない
こうした議論のためには行動指標の測定が欠かせない
2. 感情体験の主観評定
2-1. 状態としての感情反応
主観評定では、研究対象となる場面において、本人に直接回答してもらう
対象者がどのような感情体験をしたのか
その主観的強度はどの程度であったかなど
たとえば、ステージ上で感じる緊張感のように、一過性の反応を測定する
対象とする場面の直後に、対象者に質問紙への回答に協力してもらう
「これまでに最も緊張した場面を思い出してください」といった質問により、その当時の場面を思い出してもらう
2-2. 特性としての感情喚起傾向
一般にある事象に対する感情反応には個人差がある
主観評定の中には、こうした個人差を評価するために開発されたものがある
たとえばSTAIには、状態不安とは別に特性不安を測定する項目が20項目用意されている
「普段の自分にどの程度当てはまるか」という想定において、「幸せだと感じる」「つまらないことが頭に浮かび悩まされる」といった項目に対して4件法で回答させる
2-3. 1次元的評価, 多次元的評価
主観評定には、それが状態の評価であれ特性の評価であれ、評定の次元が1次元的なものと多次元的なものがある
1次元的評価
STAIのように、評価対象とする感情状態の強さを1つ取り上げ、その程度の大小を評価対象とする
多次元的評価
評価対象とする感情状態が複数存在し、それぞれの評価次元における反応の大小だけでなく、全体的な評価結果のパターンも研究対象となる
気分がポジティブな場合には、活気の次元の得点だけが高く、それ以外の次元の得点が低くなるなど、6つの得点パターンによって感情状態を総合的に評価する
3. 感情が行動に及ぼす影響の測定
3-1. 成績の良し悪しに関わる行動指標
感情反応が私達の行動に及ぼす影響について検討するとき、一つの方向性は、特定の感情状態によって私達のパフォーマンスがどのように変化するのかについて検討すること
目標の達成度や、反応の素早さ、正確性など、測定した数値によって成績に良し悪しを評価できる指標が用いられる
実験の目的は単語が消えた直後に呈示される黒いマークへの反応の素早さから、緊張にかかわる単語(失敗、浪人など)に対する注意の大きさを検証すること
実験の結果、試験の3ヶ月前では不安特性の高低による反応の素早さに差は見られなかった
ところが試験1週間前になると、不安特性の高い人は緊張関連後に多くの注意を向けていることがわかった
逆に性格的にあがりにくい学生は、わずかではあるが不安語から注意を背ける傾向が見られた
3-2. 非言語行動
行動指標には、成績の良し悪しではなく、感情を表出する指標として測定されるものがある
顔には46の表情筋があり、その収縮により多様な表情が作られる 「快―不快」と「覚醒―眠り」の2次元で表現される平面上に円環状に布置
この他の非言語行動の指標としては、目の瞬きや、身振り・手振りなどの指標
たとえば緊張状態が高まると、髪の毛を触ったり、手をもじもじさせたりする人がいる
ポジティブな感情の喚起が緊張感を緩和させたために行動が減少したのだろうと解釈される
4. 生理心理学的指標
感情反応の測定に使用される生理心理学的指標を大別
脳活動を測定する指標
抹消反応をとらえる指標
複数の指標を同時に、かつ比較的容易に測定できるため、感情研究においても数多くの指標が用いられている
免疫系の指標
4-1. 抹消反応の測定
抹消反応
骨格筋の活動(たとえば筋電図で筋緊張のレベルを測定するなど) 以下では代表例を紹介する
心臓をはさんだ体表面に電極を置き、その活動を伝記的に記録する心電図を用いて評価する 研究では心電図上で最も振幅の大きいR波を用いて、一定時間内のR波の生起回数を計測することで心拍数を評価する 心拍は厳密に見れば、1拍ごとの時間間隔がわずかに変動している
この変動の程度から自律神経系の活動を評価できるという考え方がある
皮膚表面の温度は皮膚表面に表在する末梢血管の収縮・拡張の程度により変化する
緊張状態が高まると、末梢の血管が収縮して表面温度が低下することから、皮膚表面温度の測定から感情状態の推定に役立てられている
体表面の温度分布を赤外線カメラにより撮影して視覚化する装置
自律神経活動の変化を皮膚汗腺の電気的特性によってとらえたもの
私達は興奮状態になると、手のひらや足の裏にごく微量な汗をかく
温熱性の発汗と区別してこう呼ばれる
精神的発汗を伝記的にとらえたものが皮膚電気活動
具体的な測定方法
手に1対の電極を装着し、そこに微弱な電流を流す(通電法) 発汗によって生じる皮膚の見かけ上の抵抗変化を測定することにより、測定対象者の感情状態を評価
概要
実験参加者: ヘビ嫌い、クモ嫌い、どちらも嫌いでない統制群
刺激: ヘビ、クモ、花、キノコ
マスクありとマスクなしの条件で参加者に呈示
マスクあり条件の場合、写真呈示直後に提示される中性的刺激が原因で写真の内容を認識することができない
結果
マスクあり・なしの両条件において、ヘビ嫌いの人はヘビ、クモ嫌いの人はクモの写真に対して皮膚電気活動が大きくなった
この結果から、緊張感を喚起させる刺激がたとえ無意識下で提示されたとしても、身体はそれに対して緊張反応を示すことがわかる
4-2. 中枢反応, 免疫活動の測定
感情状態を脳活動や免疫系の指標により測定しようとするものとして、それぞれ脳波とコルチゾルを紹介する 脳の神経細胞の集団が示す電気活動をとらえたもの
脳波を記録するための電極を頭皮上に貼り付けると、非常に微弱な電気活動が観察される
この電気活動を増幅器によって増幅させることで周期的な波形が確認できる
この脳波の周期性は感情状態により変化する
目をつぶって安静状態を保つと、比較的ゆっくりした周期の波形が現れる(8-13Hz: 1秒間に8回から13回程度)
少し興奮した状態にある時は脳波の周期が早くなり、13-20Hz程度となる
コルチゾルは通称ストレスホルモンと呼ばれるほど、緊張状態が高まると急速に増加する このコルチゾルは唾液中にも存在する
また、その濃度は血液中のコルチゾル濃度と高い相関を持つ
したがって採血をせずとも、唾液を綿棒で採取することで簡便にコルチゾルの測定ができることとなり、心理学の研究でも非常に多く用いられることとなった